| どくとる・のへみんの研究室 |
| 作:ノイシュタタタット |
第一話 お兄ちゃんといっしょ♪ 「うーん、やっぱり、元になるレンズの質が問題かしらねえ・・・」 設計図とにらめっこしながら、ハロルド・のへみん・ベルセリオスはうなるように言った。 彼女は、圧倒的不利な状況に置かれている地上軍を勝利に導くために、ソーディアンという兵器を研究開発しているのであるが、廃品リサクルで何とかしのいでいる地上軍が手に出来る物資では、最新のレンズ技術を必要とする、その品物を作るのは、天才、いや天災マッドサイエンティストで名高い彼女をもってしても、至難の業なのである・・・・。 「他の連中はどうなってもいいけど、やっぱり、お兄ちゃんを危険な目に合わせるわけには行かないものね♪」 さらりと、暴言を口にするのへみん。ちなみに、彼女は極度のブラコンであり、義理の兄である軍師カーレル・正樹・ベルセリオスにゾッコンだったりする。勿論、このことは、地上軍の中で、公然の秘密になっており、正樹に手を出そうものなら、命の保証はない。しかし、どこの世界、どこの時代にも無謀な人間はいるもので、正樹のハートをゲットしようと、のへみんに挑む、命知らずも数人いたりするのであるが、それに関しては、別の機会に語るとしよう・・・・・。 「とはいえ、ソーディアン適性の権限はさすがに、戦況がかかっているから、お兄ちゃんを狙う泥棒猫たちを完全に排除することは出来ないし・・・・」 腕を組んで、うなるのへみん。現在、ソーディアンの候補として上げられている人物は、全部で5人。正樹、火の玉中将の異名をとるディムロス・真奈美・ティンバー、黒衣の天使と畏怖されているアトワイト・菜織・X、エリート軍人の呼び名が高いイクティノス・みちる・マイナード。歴戦の猛者ラヴィル・泰雄・クレメンテの5名である。この中で冴子、真奈美、みちるが正樹を狙っており、そのほかにも、ソーディアン適性にもれたものの、正樹と同じ時期に軍に入った田中冴子、諜報部隊所属の信楽美亜子と、彼のハートを狙うものには、枚挙に暇がない。彼女としては、そんじょそこらの女が、正樹と親しくなるのを防ぐために、ちょっとした秘策を練っている最中であるが、それ以前に、正樹が他の女といい仲になられるのも、歓迎できない事態であり、何らかの対策を練る必要に迫られているのも、事実である。言ってみれば、ソーディアン開発は、その口実に過ぎない。 「どこかにいないかしら・・・・、悪い虫がつかないように、お兄ちゃんを、泥棒猫から遠ざけてくれて、なおかつ、お兄ちゃんと深い仲にならない、便利な虫除けって」 フウッ、と深い溜息をつくのへみん。まあ、そんな都合のいい人間が、そうそう、いる訳はないのだが・・・・、 「そういえば、あいつなんか、うまくすれば、いい虫除けになってくれそうかも・・・」 のへみんが、口元に手を当てて、にんまりと笑うのへみん。 「それで、今度は、どんな無理難題を吹っかけてくるんだ?」 地上軍総司令、メリクリウス・アルバート・リトラーがもう慣れたといわんばかりの顔で、聞き返した。 「それじゃあ、まるで、私がいつも、無理難題を吹っかけているみたいじゃない・・・。そりゃあ、お兄ちゃんに関することで、ちょっとわがまま聞いてもらうことはあるけど」 怪訝そうに首をひねるのへみん。 「・・・・・正樹に近づく女の素行調査を人手不足の諜報部でしてくれだの、冴子やみちるを危険度の非常に高い前線に、最優先で配備してくれだのを、ちょっとしたわがままとは言わないと思うが?」 めまいを覚えながら、マスターがぼやいた。なにしろ、圧倒的劣勢で敗北をかろうじて回避しているのは、のへみんの頭脳によるところが少なくないので、正樹が基準になっている行動原理や、それに伴うトラブルには、多少、いや、少なからず、目を瞑らざるを獲ない。まあ、目をつむらない場合は、無茶な手段で、わがままを通されてしまうこともしばしば、ではあり、結局は同じことであるが。 「やあねえ、今回は、志願してないので、ソーディアン適性に通りそうなのを推薦しに来ただけよ」 白々しさ爆発の笑いをするのへみん。 「本当か?」 かなり疑わしげに、のへみんを見るマスター。これまでにも、のへみんのこの手の論法で、散々なめにあってきたので、必要以上に、彼女の発言には疑り深くなっている・・・。 「本当よ。それにこれ聞いてくれなかったら、ソーディアン作ってあげないわよ」 にこやかに、最期の手段をあっさりと切り出すのへみん。ソーディアンが開発されなければ、敗戦は必至なのはいうまでもない。 「・・・いいだろう、バルバトスみたいなケースもあるから、よっぽど、性格等に問題のありすぎる人間でなければ、かまわないだろう・・・」 戦いの勝敗を左右する新兵器と、のへみんに振り回される災難なメンバーをはかりにかけて、あっさりと、とばっちりを受ける相手のことには、目を瞑るマスター。 ちなみに、バルバトス・チャムナ・ゲーティアとは、以前、地上軍にいた人間で、真奈美にも匹敵する力を持つ猛者ではあったが、性格に問題がありすぎ、ことごとく、真奈美とぶつかった挙句、天上軍に寝返ろうとして、殺されてしまった人物である・・・・。 「大丈夫、大丈夫、そんなにやばい人じゃないから♪」 朗らかに答えるのへみん。だが、その口調がマスターの不安をより煽ってしまう。マッドサイエンティストの大丈夫ほど、不安なものは無い・・・・・。のへみんの場合はなおさらである。 「それで、その不幸な奴は誰なんだ?」 溜息交じりにマスターが問い掛けた・・・・。 「ピエール・明彦・シャルティエ。右のもの、ソーディアンチームとして、本部への異動を命じます」 「はい?」 第四小隊の隊長、羽瀬川朱美が読んだ辞令に、目の前が真っ白になる明彦。 「復唱は?」 副隊長の岩倉夏姫が促すように言うが・・・、 「いや、ソーディアンって、この間、志望者を募ったあれでしょう? あれ、俺は確か志願してないはずですよ」 寝耳に水の辞令に、戸惑う明彦。少し前から、彼と因縁浅からぬ、のへみんが新兵器の開発にのりだし、それのモニターになる人間の募集をしていることは知っていた。しかし、他の連中よりかは、のへみんの事をよく知っていて、なおかつ、真奈美のような武も、のへみんのような、ちょっと壊れているが、際立った智も持たない彼は、ちょっとばかし、小器用なことと、目端が利くことで、パン一切れの為に、人々が殺しあうようなこの時代を、何とか潜り抜けて来たのであるが、それゆえに、自分の分というものをよく知っていた。 だから、ソーディアンの話を聞いても、自分には過ぎた力だと思って、さして、興味をもたずに、傍観を決め込んでいたのである。 ・・・・彼が地上軍に入る原因となったのへみんがそれを開発しているということを思いっきり差し引いても、余りあるくらいに。 「志願しなくても、適正ありと認めた人間には、一応、適性検査をしたそうよ。まあ、私も上司として、鼻が高いわね」 冷ややかに答える夏姫。さりげなく、嬉しそうな言葉を口にする。 「そうそう、えらいえらい」 朱美が、鼻高々に明彦の頭を撫でる。その表情は、自分の恋人のことを誉めるような態度と同じであった・・・・。 「絶対、何か企んでやがるな・・・」 朱美や夏姫の態度には気がつかない明彦が、小声で毒づいた。そもそも、真奈美とコンビを組んでいたとはいえ、明らかに際立った資質を持たない自分が、ソーディアンチームに抜擢される、このこと自体、怪しすぎるのだ。真奈美も自分の近くに引っこ抜こうとした時期もあったが、のらりくらりと、それを断りつづけているせいか、最近では、すっかり諦めている節も見受けられる。そうなると、ほかに、ぱっとしない自分に注目しそうな人間など、のへみんくらいだからだ・・・・。 「最近、顔を合わせないからって、油断しまくってたな・・・・」 すっかり、最近の平穏に慣れきっていたのと、平穏とはたやすく破られることを、のへみんから受けた、数々のとばっちりの記憶とともに思い出す明彦。 「復唱は?」 口調を元に戻しながら、あっけにとられていた明彦に、声をかける夏姫。 「・・・あっ、はいっ、ピエール・明彦・シャルティエ、拝命します!!」 あわてて、敬礼して、明彦は辞令を受け取った・・・。脳裏をよぎる嫌な予感とともに・・・・・・・。 「どういうつもりだ?」 辞令を受け取ったその足で、明彦はのへみんの研究室にむかって、問いただした。 「というと?」 聞き返すのへみん。 「志願してない俺を、わざわざ、ソーディアンチームに入れたわけだよ」 冷ややかに、再度問う明彦。まあ、すくなからず、のへみんの起こすトラブルに巻き込まれ、のへみんの悪企みの片棒を担がされつづければ、嫌でも、彼女のやることに、何か裏があると、疑いたくなるのは当然かもしれないが・・・・。 「やあねえ、ちょっと、目立たないけど、有能な人間を推薦しただけよ」 悪びれもせずに、のへみんが答えた。 「悪いが、辞退させてもらう。地上軍の命運を左右する新兵器の使い手なんてのは、柄じゃないんでね」 さっさとのへみんに背を向けて、研究室を後に仕様とする明彦だったが・・、 「引き受けてくれないと、これ、ばら撒くわよ」 「えっ・・・・・・・・・!?」 のへみんがちらつかせた写真に、明彦の顔が青ざめる。 「第四小隊の女性メンバーと、全員関係もってること、基地中に言いふらしていいわけね、写真付きで」 にっこりと笑って、最後通牒を突きつけるのへみん。彼女が持っていたのは、それぞれ、部隊の女性メンバーと逢引している光景を取ったものである・・・・。 「い、いつの間に・・・・・」 引きつった顔で、写真を見る明彦。 「しかし、やるわねえ、羽瀬川隊長に、岩倉副隊長をはじめ、ほんと、ばれないのが不思議なくらいよね」 次々と写真を取り出すのへみん。明彦のいる部隊の女性は、他の部隊や、部署でも人気の高い者が多く、彼女ら相手に、何股もかけているのがばれた日には、アスの朝日は拝めないのは、必然である。 「・・・・・何をやればいいんだ?」 観念したかのように、のへみんに問い掛ける明彦。 「簡単よ、お兄ちゃんに変な虫がつかないように気をつけてくれればいいんだから」 明彦の方をぽんと叩くのへみん。 「・・・俺に、真奈美や、みちるさんを相手取れというか?」 めまいを覚える明彦。真奈美とみちるは、軍で一、二を争う強者。菜織に至っては、女医ではあるが、生涯現役を辞任する泰雄の主治医であるため、前線で戦う軍人の仲では一番の重鎮である彼でさえ、頭が上がらないので、ある意味では、地上軍の実力者の一人といっても差し支えない・・・。 「場合によってはたらしこんでもいいのよ、いまさら、第四小隊の女性陣のほかに、一人や二人増えても、大して変わりないでしょ?」 「人をまるで、節操なしの女好きみたいに言わんでくれ・・・・」 のへみんの言葉に、説得力などかけらも無い異を唱える明彦。 「10人近くも同時に、しかも、誰にも気が付かれないように付き合っていて、そんな台詞を言っても、説得力ないわよ」 冷ややかに、明彦の肺腑をえぐりかける言葉を投げつけるのへみん。 「うっ・・・・・、ちょっとした成り行きとか、偶然が重なっただけだよ」 なおも、反論を試みる明彦。 「へえ、第二小隊の前田耕治に振られた女の子の隙を突いて、口説き落としたのも?」 「あれは、慰めているうちに、気がついたら、いい雰囲気になっちゃって・・・・」 ジト目ののへみんに苦しい言い訳をする明彦。 「それとか、天上軍から寝返った高井さやかといい仲になってるのも?」 「・・・・あれもまあ、あんたに成りすまして、地上軍を混乱させようって作戦の時からの知り合いだし、いろいろと相談に乗ってるうちに、親しくなっちゃって・・・・」 乾いた笑いを浮べて、弁解する明彦。ちなみに、さやかがのへみんの振りをして、地上軍に潜入する作戦のときに、彼女を地上軍まで案内したのが明彦で、その途中で本物ののへみんとばったり遭遇、以後、何だかんだと、妙な縁が続くきっかけになるので、明彦にとっては、けちのつき始めとも言える事件だったりするのだが・・・・・。 「隊長を口説き落としたのも?」 「あれは、ろくすっぽ、経験もないのに、一回上げた手柄で、隊長に抜擢されて、不慣れな地位に、右往左往しているのが、どうにもほっとけなくて、あれこれ手を貸していたら、いつの間にか、親しくなっちゃって・・・・、あははははははははは・・・・」 はぐらかすように答える明彦。 「ホント、女の敵というか、人間のくずね」 ベルグラント並みの容赦なさで、明彦をぶった切るのへみん。マッドサイエンティストとはいえ、年頃の女の子、やはり、明彦のように何股もかけるタイプは許せないようだ・・・・・・。 「うっ、返す言葉もございません・・・」 完璧に敗北を認める明彦。 「というわけで、ソーディアンが完成するまで、お兄ちゃんに変な虫がつかないように、頼んだわね」 のへみんが、明彦にお願いするように言う。最も、形はお願いだが、実質的には勝利宣言同然ではあるが・・・・・・。 「はい・・・・」 選択の余地なしの明彦は、不承不承頷くのであった・・・。 「ソーディアンさえ完成すれば、これと、私の秘策で、お兄ちゃんに、そんじょそこらの女が手を出せないように、手を打てるものね」 うっとりとした顔でいうのへみん。 「あのお、それは一体どういうことで?」 恐る恐る尋ねる明彦。 「これ、これはパペットマスターシステムといって、お兄ちゃんに手を出す不埒なソーディアンマスターを懲らしめるための装置なのよね」 得意げに語るのへみん。ソーディアンとそのマスターとの共鳴を応用したシステムで、ソーディアンの持ち主が、その力を悪用したときのための安全装置みたいなもんであるが、その存在を知っているのは、現時点では、のへみんと明彦だけである。 「ひょ、ひょっとして、俺のにも、その装置を?」 青ざめた顔で尋ねる明彦。只でさえ、頭が上がらないのに、そんな装置まで使われた日には、生きた心地がしないというものだ・・・・。 「大丈夫よ、信じてるもの、明彦のことは」 明彦に微笑みかけるのへみん。 「そ、そうか?」 ホっと、胸をなでおろす明彦。 「十股近くかけてい事のほかにも、脅せるねたは、いろいろ掴んでいるから、それでも逆らえるような根性無いって事は、よーくしってるもの」 持ち上げておいて、にこやかな顔で、容赦なくどん底に突き落とすのへみん。パペットマスターシステムをつけられた方がまだマシという気がするが、言ったら、本当に実行するので、口に出さないでおく明彦だった・・・・・。 「まだ、あるのかよ、脅せるねたが・・・・」 目の前が真っ暗になる明彦。そう考えると、思い当たりそうなねたがいろいろと頭をよぎって、嫌な考えにたどり着いてしまう・・・・・・・。 「当然でしょ、あなたのような、便利で頼れる下僕は早々いないんだから♪」 「ううっ・・・・」 のへみんの駄目押しとも言える台詞に完全にとどめをさされる明彦。どういうわけだか、軍に入る以前から彼女と関わる機会が多く、どういうわけだか、結果的にのへみんに好都合なように動いてしまうのだ、彼は。 こうして、明彦はソーディアンチームのメンバーとして、本部に配属されることになるのだが、この人事が、この戦争を、そして、千年後の世界の命運を左右することになるとは、このとき、だれも知る由は無かったのだった・・・・・・。
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