制度活用事例◆野口製作所◆

―深絞りに特化、独自技術を活用する経営戦略−

企業名:株式会社野口製作所 本社:豊橋市西幸町字東脇202 設立:昭和23年3月
資本金:1,200万円 代表者:野口真司 従業員数:141名
事業内容:金属プレス加工及び金型製作

 平成6年株式会社野口製作所は重大な局面を迎えていた。主要製品の受注量が50%以上減少していた。原因は素材が金属からプラスチックへ変わっていったこと、それからアナログ的な機械部品が電子化したことで不要になったことである。時代は大きく動いていた。その流れからこのままでは取り残される、そんな予感があった。
 

技術的に難しい深絞りのほうが得意

 野口製作所は昭和23年カメラメーカーのプレス部品を手がけて以来、一貫してプレス加工業を行ってきた。カメラ、テレビ、オーディオの部品を手がけた。自動車の電装品は一時90%を超えた。プレス加工は基本的な抜き・曲げ・絞りの3つの加工法がある。凹と凸の2つの金型の間に板材をはさんでプレス機械で圧力をかけ、板材を様々な形にする。抜きは板材を打ち抜く加工法、曲げは板材を曲げていく加工法、絞りは板材の中ほどに圧力をかけ数工程をへて底付の円筒状にしていく技術である。一般に絞りのほうが加工としてはむずかしいとされるが、野口製作所は抜き・曲げよりも絞りの方が得意だった。
 昭和60年、そんな得意分野を見込んで電池缶の仕事が舞い込んだ。長い底付円筒状の形状に加工する「深絞り」の仕事、絞りの分野でも多くの工程が要求され、難しいとされる仕事だった。しかし、この深絞りの技術を磨くことで将来の核となる技術を得ることになる。

 

◆■ 激減する受注、得意分野へ特化

 主要製品が50%以上減少したことで、新たな事業分野を開拓する必要に迫られた。しかし、汎用部品分野で競争するには会社は高コスト体質になっていた。金型は全て自前で製作、工程のほとんどが内製、従業員は全て社員。それまでは「技術ノウハウ」の囲い込みとして自社の強みとさえされていた要因だった。相見積になると高コストのため負けることが多くなっていた。

 「一般的な分野では勝負にならない。うちにしかできない分野を確立しなければ」。苦境を打開するため、自社技術の棚卸を行った。
 その結果「板金鍛造技術」と「ステンレスの円筒深絞り技術」の2分野に絞り、営業活動を開始した。
 しかし「板金鍛造」には大きな問題があった。板金鍛造は板金を圧縮して板厚を変える加工法。加工装置には大きな負担がかかる。「材料がつぶれれば仕事になるが、加工機械や金型がつぶれたら仕事にならない」。そんなリスクを負うことはできず、断念した。

 一方、ステンレスの深絞りも苦戦していた。自動車業界ではあたりまえの「型費」について、お客さんの理解が得られない。プレス型は加工の基本となるもので緻密な仕上げと高硬度が要求されるため、大変高価だが、初期費用として必ずかかるものである。それまで、型費をお客さんに負担してもらうのは常識であったが、お客さんからすると少数ロットの発注では高価な型費も負担すると1個あたり恐ろしく高価な部品になってしまう。これでは、他の加工法に比べ加工速度が速く製造コストが安くつくプレス加工の強みが出せない。
 

◆■戦略商品「P管」の誕生

 型費をもらわなくてすむ仕組みはできないものか」。いくつものお客さんの図面を徹底的に分析した。すると、サイズの類似するもの、工程も共通化できるものが多いことが判明した。「それなら、ある一定段階までは型も工程も標準化できるのではないか。標準的な型を組み合わせさえすれば、応用範囲は無限に広がる。専用型を作らないことで納期は短縮できるし、型費もかからない。工程も標準化されれば、ある程度の工程まで作業を進めておき、ストックとして持っていればより短納期に対応できる。これならお客さんに喜んでもらえる」。

 こうして一定範囲ながらも『長さ・径・板厚が自由に指定でき、しかも金型費不要、数量は1個から1,000個までの定価販売』という、プレス業界では画期的な「プレス絞り管」通称『P管』は売り出された。反応は上々であった。特に試作・開発部門からの問い合わせを多く受けた。開発部門では、最高の機能を発揮する製品をつくるために様々な形状・材料で試行錯誤をする。部品として必要な個数は30個、50個といった小ロットで、P管の登場はまさに朗報であった。

 実はこのP管は単独で見れば儲けにならない商品である。しかしここには深い戦略が秘められている。
 開発部門からの様々な形状・材料の変更に対応する、ということは開発段階からお客様と綿密な打ち合わせをしていることになる。最高の部品をP管で納めることができれば、研究開発部門は量産化が始まる時、購買部門に何と言うか。「ここの部品はこの野口製作所のものを使ってくれ。先方は全部わかっている」。こうして引き続き量産の受注を受けることになり、大きな仕事となって結実するのである。
 

産学交流による技術研鑚

 しかし、こうしたお客様の技術陣の期待に応えるには技術のバックボーンが必要だ。ステンレスの深絞り、という技術はニッチな分野で、その専門家の数も少ない。P管を始めた当初、実は加工は順調にいっていなかった。困り果てた社長は潤滑油を取り扱う会社を通じて、新潟の公設試に籍を置く第一人者を紹介してもらっている。親身な指導を受け、技術力を高めていくことになるが、このことをきっかけに人脈は大きく広がった。
 ニッチな技術の世界、野口製作所の試みに対し「おもしろいことをやっている企業がある」と評判の広まるのは速かった。困ったときには論文を調べ、直接大学を訪問し理論と技術を学んだ。先生はそれが実際の製造現場で活かされていることを見て研究意欲を高めた。理想的な産学交流の姿とも言える。

 

「金型バンク」構想

 P管は新たな事業分野へ広がりをみせていた。1,000個までならP管で対応できる。数万個の量産体制なら専用型で加工する。ではその間の5,000個、10,000個への対応をどうするか。

 これに対し、金型ストックの組み合わせで連続型を作り準量産に対応する「金型バンク」構想を進めている。
 金型からプレスまで全て自社技術である企業ならではの発想だ。これに加え、この3月には「規格品」も販売する。まとめて製造することで大幅に安価で提供することができる。
 このラインナップを社長はこう例える。「専用型品は『オーダーメイド』、P管や金型バンク品は『イージーオーダー』、規格品は『レディメイド』。これで顧客のあらゆるニーズに応えることができる」。
 

深絞り超軽量エンジン用ポペット弁はレースエンジニアから問合せ殺到

 当社の技術で密かに注目を浴びているものがある。超軽量のエンジン用「ポペット弁」。特許出願中の静岡の技術士から当社の深絞り技術を使い作れないかと申し出があった。ステンレスであれば、従来品の35%、チタン製であれば20%になる。弁が軽くなると少しの力で弁の開閉が可能になり、ばねの軽量化や、回転数・燃費の性能が大幅に向上される。事が心臓部であるだけにその影響は絶大である。 平成12年初、試作品を特許流通フェアに出品。大きな反応があった。新聞記事にもなった。レーシングチームから問い合わせが相次いだ。試作段階だから、と何度も断った。エンジンのプロからの問い合わせに手ごたえを感じ、技術士、レーシングサービス会社で本格的に共同研究を開始している。

 この他大学との共同研究も積極的だ。財団法人東海産業技術振興財団の研究助成の他、平成12年には中小企業総合事業団の委託事業「課題対応新技術研究調査事業」の採択を受け、豊橋技術科学大学と共同研究を進めている。
ニッチな分野で自社のコア技術を確立、絶え間ない技術力向上、それを利用して独自のビジネスモデルの構築。コア技術をこだわった企業の姿がここにある。


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